過労、介護が関係

うつ病と関係することもある

心療内科医の治療、アドバイス


病気の不安、恐怖、心気症についての説明と治療及びアドバイス

病気の恐怖 不安が取れない

 

体調不良が生じ、総合病院でいろんな検査を受けても、特に問題がないのに、症状を気にして不安になっている患者さんが、心療内科に紹介されます。体の不調や違和感から「何か大きな病気にかかっているのではないか?」と非常に心配しています。よく話を聞いてみると、「精神的に疲れ、活気がない、何も楽しめない 。」 など虚脱感に陥っています。このような症状に対して、私たち心療内科医や精神科医は、心気症あるいは心気状態と診断します。それは、本人のみならず医師も、はっきり説明しにくい体の違和感や不調です。めまい、頭重感、喉のつかえ 、手足のしびれ、動悸、息切れ、胃のもたれ 、下痢など症状は様々です。症状は変わらず一定している場合もありますが、次から次へと、いろいろ変化して各科の専門医を受診することも少なくありません。「何か大きな病気にかかっているのでは?」と思い込んでいますが、医師からは「検査しても問題は無い。心配しなくても良い、少し様子を見れば。」とか「ストレスがかかってる。気楽にしてください。」と軽く言われます。しかし、納得できず、不安は取れません。

 

ストレスと心気症

 

心気症は体の病気ではなく、心の疲れや不安からくる心の症状で、ストレスと大きく関係します。過労 、職場での人間関係の対立、 摩擦 、介護疲れ 、失恋 、家庭内のトラブル。このようなストレスのため精神的な疲労感が、無意識のうちに、体の違和感や不調に置き換えられるのです。説明しにくい痛み、体の異変、違和感に、とても神経質になって「何か大きな病気になった。」と言う不安を抱くようになります。例を挙げると「頭痛がする。こめかみが、ズキズキする。脳外科で診察を受け、MRIなど問題はなかったがきっと、くも膜下出血の前兆ではないか?」「父も脳出血で倒れた。そのことが頭から離れない。」「ここ1ヵ月近く、仕事が忙しく、残業で食事も不規則になった。そうしてるうちに、胃がもたれ重たくなり、お腹に痛みを感じる。食欲もない。薬屋で胃薬を買って飲み続けても、一向に改善しなかった。そこで病院に行って、内視鏡やエコーの検査を受け、神経性胃炎と言われた。けれども、症状が続き自分では胃がんの初期ではないかと心配になり、仕事も手につかない。」「最近ストレスがかかって、眠れない日が続いた。そんな折り、顔に発疹ができた。皮膚科に行ったが接触性皮膚炎の薬をもらい、すぐに良くなると言われた。でもテレビで偶然見た膠原病に違いない。」と不安になる。心気症ではこのような不調感が長く続き、本来の活動が制限され、どんよりした重ぐるし気分が生じます。

 


心気症がひどくなると

 

心気症状がひどくなると、死の恐怖感に襲われるようになります。健康に関する専門書を読み、健康食品や各種のサプリメントを試してみても、体の違和感は取れず、不安が高まります。逆に言うと、症状にこだわれば、こだわるほど不安が強くなるのです。病気や症状のことで頭の中はいっぱいで落ちつかず、とても弱気になって、生活に喜びが感じられません。ひどい時は、外出もせず1日中横になって過ごし、何もする気が起こりません。こうしてるうちに、「はっきりと診断されないが、大きな病気にかかっている!」と確信するようになります。

心気症の原因

 

家族や知り合いが、突然病気で亡くなった。元気だった人が、急に病気になった。このような悲報や辛い思い出が、記憶の中にとどまり「いずれ自分もそうなる。」と、無意識のうちに、病気に対する不安を抱くようになります。それだけなく、過労 、看病疲れ、 人間関係のトラブル、そのようなストレスが続き、それに単身赴任、定年、転職、離婚などの環境の変化が加わると、心身が疲労し、 めまい、手足のしびれ、喉のつかえ、微熱など何とも言えない体の不調が出現することがあります。そうなると不安が不安を呼び、症状に意識が集中し、敏感になって、違和感や痛みを強く感じるようになります。このように、不安、違和感、症状へのこだわりといった悪循環が生まれ症状が固定化されます。

 


心気症とうつ病

 

注意しなければいけないのは、心気症状を伴う、うつ病があります。うつ病による心気症状はとても違和感が強く、非常に不安を感じ、ガン恐怖症に、発展することが珍しくありません。それに集中力、判断力も低下し、意欲、気力も衰え、不眠、食欲不振などのうつ病特有の症状が見られます。このようなうつ病は精神的な不調よりも身体面の不調が強く現れ、仮面うつ病と呼ばれることがあります。この場合、抗うつ剤等の治療と同時に、ストレスを避け心身の休養が必要です。

 

どんなタイプの人が心気症になりやすいのか

 

心気症になる人のタイプは、大きく分けて2つに大別されます。

一つ目のタイプは繊細で、取り越し苦労が多く、ストレスを感じやすい人です。けれど律儀で責任感が強く、「自分がもし病気で倒れたら、家族や今の仕事生活は一体どうなるか?」と非常に心配される方です。ちょっとした体の異変にも神経質になり、健康にこだわる人です。

次のタイプは活発で積極性があり元来は健康であった人です。「病気なんて自分には無関係だ!」と思っていた人です。しかし会社の検診で病気が分かり、その後手術を受け完治したのですが、弱気になって本来の活気を失ない、医者が「大丈夫。心配しなくてもいい!」と保証してくれても、「病気が悪化する、再発するのでは?」と、気持ちが前向きになりません。心気症状は、ストレス 、環境の変化 、体質 、性格、そして以前かかった病気の辛い思い出。このようなことが複雑に関係して発症するのです。

 

 


心療内科医としてのアドバイス

 

心気症の患者さんにとって、病気のこだわり不安を、取り除く事は容易ではありません。というのは症状や不安が続くと、精神的にも肉体的にも、活気を失い、塞ぎ込み、本来の自然回復力が失われるからです。「ではどうすればよいか?」心療内科医として助言します。

 

1番目 心気症状は、体の不調ではなく、心の疲れや不安が原因であることを理解してください。

 

2番目 不安を取り除くことが大切です。そのため、心配なこと、気にしてる事を、ひとまず置いとくような気持ちで、深く思い詰めない、自分を追い詰めない、ささいなことで自分自身を苦しめない、この3点を心掛けるようにしてください。

 

3番目 生活にリズムをつけましょう。つまりプライベートとオフィシャルの時間をはっきりと区切り、活動と休息の切り替え、よく眠り、栄養のバランスを考えた食事をとる。湯船にゆっくりつかり、英気を養ないましょう。

 

4番目 仕事が終わった後は、職場の事は考えない。思い出さない。話さない。そのようにしましょう。何よりも、くつろぎ、心身の疲れを取りましょう。

 

5番目 人間関係のストレスが続く時は、あるがままの自分を大切にし、自然体を心がけましょう。必要以上に気兼ねしたり、気を使う事はやめましょう。それがストレスです。

 

6番目 心気症状が続くと、どうしても、マイナス思考に傾きます、つまり悲観的なったり弱気になります。それを払拭するために、元気だった頃の自分を覚い出してください。それと同時に、「病気だからこれはしてはいけない、これはできない。」と消極的になるのではなく「これならできる、これはしたい!」と前向きになってください。例えば、好きな音楽を聴く、映画を見に行く、趣味をする。

 

7番目 少し不安が取れ、余裕ができれば、体力づくりです。天気の良い日は、外出して散歩をする、少しずつ歩くペースを早める。少なくとも30分に1度ぐらいは、ベンチに腰かけてゆっくり深呼吸しましょう。次に、軽くストレッチ運動をしてみましょう。いずれにしても、マイペースに続けていくことが肝心です。体を動かしてリフレッシュしていくうちに、「自分は健康だ!」と言う意識が徐々に芽生えてきます。それが心気症のケアの中でとても大事です。

 


心気症の治療とストレスケアについて

 

患者さんは、「ひどい病気にかかっている。もしかしたら、いつ死んでもおかしくない?」という不安を抱いているかもしれません。心療内科では、ストレスケアや、カウンセリングなどの心理的ケアを行います。まず会話(カウンセリング)を通じて、疲れた心を受け入れ、不安から来る心の緊張感を弱めていただきます。これが治療の第一歩です。次に、「Aさんは、大きな病気でありません、心の不安から体の不調が来ているのです。」と繰り返し説明し、安心してもらいます。もし症状が強い時は、不安を弱める薬、自律神経を安定させる薬、時には抗うつ剤なども処方します。服用すると、徐々に気分が和らぎ、不安が少なくなり、痛みや違和感が軽くなります。そして、ストレスケアについて簡単に説明します。心気症は、生死に関わるような、重症な病気ではありません。しかし説明したように、精神的に疲れ、ストレスに対して弱くなります。このため、治療と同時にストレスケアを行います。カウンセリングの中で、ストレスの原因、ストレスの対応、ストレスの感じ方など、できるだけ感じたまま、話してもらいます。カウンセリングといっても、特殊な方法、技法ではありません。私たちは、リラックスする雰囲気を作ります。肩に力を入れず、気楽に話してもらうように配慮します。会話をすると、心の緊張が弱まり、不安が少なくなります。ストレスケアの目的は、このように、症状だけでなくストレスに対しても柔軟に対応できるようにサポートすることです。

 

 

まとめとして

 

最後に一言付け加えると、治療は医者が一方的に行うものではなく、患者さんの協力、努力、根気が必要です。症状に負けず、うまく付き合ながら、すべきことをこなしつつ、毎日の生活を送っていくことが大切です。そうすれば徐々に自信が回復し、ポジティブになっていきます。症状があっても、生活に喜びを感じるようになると、体の不調感を、意識することが少なくなり「体に違和感はあるが、健康な生活も取り戻せた!」と活気が戻ってきます。

 

最後に

私が旧大阪新聞で連載した心の健康相談の中でのコラムをホームページのために要約しました。症状理解に役立てば幸いです。